ウォルター・クレイン(Walter Crane)は、19世紀後半のヴィクトリア朝時代のイギリスで活躍した絵本画家・デザイナーであり、英国近代絵本の創始者として知られている。英国の絵本黄金時代をけん引し、また現代絵本芸術の発展に大きく貢献した。
1845年、細密肖像画家、トーマス・クレインの次男としてイギリスのリヴァプールに生まれる。兄のトーマスも挿絵に進み、妹のルーシーは著名な作家という芸術一家で育つ。幼い頃より芸術的才能に恵まれ、13歳のときに、木口木版の彫版師ウィリアム・ジェイムズ・リントンの工房に弟子入りをする。この修行中に、同時代の先駆的な画家や挿絵家たちの作品に触れ、大きな影響を受ける。
16歳で独立し、出版社に作品を持ち込む中で、彫版師エドマンド・エヴァンズとの運命の出会いを果たす。 この二人の天才の出会いが、絵本の世界を根本から変えていく。タッグを組んだ二人は、全ページカラーのトイ・ブックを出版し、大きな成功を収めた。二人が手掛けた木口木版の美しいカラー絵本は、それまでの粗悪な絵本の固定観念を覆すものだった。
クレインは日本の浮世絵にも影響を受け、その手法を自身の作品に取り入れ、独自のスタイルを確立させる。1871年にメアリー・フランシス・アンドリュースと結婚し、ローマに滞在しながら古代の遺跡や芸術に触れ、ギリシャ・ローマ的な要素も取り込み、作風を発展させる。
1876年にトイ・ブックから手を引き、挿絵本を手掛けることとなる。挿絵だけでなく、本のトータル・デザインに重きを置き、装飾や字体との一体感を追求した。後に社会主義運動やアーツ・アンド・クラフツ運動に傾倒し、手仕事や伝統的な技術の重要性を提唱した。
1898年にはロイヤル・カレッジ・オブ・アートの学長に就任し、1896年に出版した『書物と装飾』は、ヨーロッパの書物と挿絵の歴史を概観した代表作となる。
本書は、花を擬人化した『フローラの饗宴』(1889)から始まる、フラワーシリーズを5作品収録した作品集である。全て「人として振舞う花たちの世界」の物語となっている。4作が多色刷リトグラフで、『イギリスの古い庭園の花の幻想』のみがハーフトーン印刷で制作された。それまでの多色刷木口木版とは全く違う、柔らかな流れるような曲線と余白が印象的である。円熟期のクレインの魅力を存分に味わっていただけることだろう。
※5つのフラワーシリーズ作品集です。各々の作品についての解説はありますが、全訳はついておりません。
ウォルター・クレインのフラワーシリーズ
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